こんにちは。『思索の森』へようこそ。今回は特別編。少しだけ軽やかな足取りのブックレビューです。案内の水野さんと2人で本について話したことを語っています。
今日の本は『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』です。
水野
はい、森田さん。 目の前にこの本、『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』が置いてありますね。これからこの本について、ゆるく紹介していきましょうと。何から始めますか?。表紙の雰囲気とか、手に取った時の感じとか、心に響いた一文とか。案内人さんが今、一番熱く語りたいところからどうでしょうか?

森田
おそらくこれ、世界一短い尊厳死の本って言ってもいいくらいです。尊厳死の本の中では、きっと一番短いんじゃないかな。まず見てください。これ「この短さ」ですよ。この本は「62ページ」なんですよ、「62ページ」。コレすごいと思いませんか?これが本当に大事だと思います。普通、このテーマの本って法律や倫理、医療の話で分厚くなりがちですよね。分厚い本は読む前に「つまらなかったらどうしよう」ってちょっと覚悟が必要ですよね。この本はその心配がない点は、最高です。
水野
へえ62ページなんですね。確かにこの「薄さ」いいですね。この短さ「皆さんにも気軽にどうぞ」って。 「まぁ、まずはこの本から」って。世界一短いかもね。その潔い短さに、内容はどうなんですか?
森田
正直この本には、みんなが知りたがるような尊厳死の具体的な話は、書いてないです。尊厳死って聞くと、「どうやって実現するの?」とか「実際のところどうなの?」って思いません?私もそれを思って読んだんですけど、でも断言する、この本にそんな答えは「ない」です。
水野
「断言する」って。「ない」、力強いね。過言ですよね(笑)。ただ、答えが知りたいから手に取るのに、それが載ってないんですね。入門書的なハウツーは全然ない? それ、大丈夫です?じゃあ逆に何が書かれてるんです?多分、作者も色々省いて絞ったんですのよね。著者の気持ち、森田さん的には何でしたか?
森田
じゃあ、まずちょっと質問させてください。次の言葉を聞いて、どう思う? 直感で答えてみて。『不治の病にあり、本人自身または他人に対して重大な負担を負わせている者、もしくは死にいたることが確実な病にある者は、当人の明確な要請に基づき、かつ特別な権限を与えられた医師の同意を得た上で、医師による致死扶助を得ることができる。』
水野
はい、直感ですね。法律ですね。なんか論理的で、しっかり守られてる感じがしますね。「本人の要請」や「医師の同意」って、安心。でも、「他人に対して重大な負担」って部分は、今の時代、引っ掛かりますね。言っちゃっていいのかなぁ。誰がその負担を測るの? 個人の命が社会に影響されてしまう、みたいな。危うさを感じますね。「あの人、周りの重荷になってない?」みたいなプレッシャーを感じます。それが私の直感です。
森田
あの……。答えを言わないで(笑)。だから直感って言ったのに。本当は「これ、僕たちの求めてる尊厳死に近いんじゃない?」って答えを期待してたんですけど。だって、この文章、そう思いません??
はい、では仕切りなおします。改めてこの文章を紹介しますと、この文章、実はナチスドイツの安楽死法の一部なんです。「ナチスドイツの安楽死法」そう聞くと、どうですか? 急に不穏な感じがしませんか?
水野
ああ、はいはい。それを聞いた後だとかなり慎重になりますね。言葉自体は変わってないのに、背景を知ると一気に重く感じる。さっきの「負担」って言葉が、形というか行動になる。イメージの問題?。尊厳死と優生思想みたいなが重なってる可能性があるんだ。だからこの本ハウツーじゃなくて、『語る前に知っておきたいこと』なのか。わかった。危うさを語ってるんだ。

森田
そう。 例えば「延命治療」や「胃瘻」って言葉を聞くと、なんとなく悪いイメージがありますよね。逆に「尊厳死」「安楽死」ってどんなイメージ? きっと「何か辛い死」から守ってくれる「よい死」って感じじゃないかな。ここは共感できる。でも、この「良い死」ってのも正直曖昧で、作者なんか『フィクション』だって言うよ。『「尊厳がない」「生きる価値がない」「強い自分」なんて、社会が押しつけてくるものじゃないか!』 ってブチギ、、問題提起しています。
水野
絶対キレてはいないと思いますけど。確かにその手の言葉は議論されますね。実際に「延命治療」は管だらけのつらい姿、「尊厳死」は穏やかな眠りみたいにイメージしちゃういますね。でも作者が「フィクションだ」って言うなら、その「悪い生」の感覚自体が、それも社会が作った幻想だってこと?そのフィクションから抜け出せます?
森田
社会の幻想って話だと、実は「強い自分でいなきゃ」ってプレッシャーから逃げてるだけかも、という指摘はもありましたね。尊厳死の前に、「尊厳」って呪いを見直せよって。それから、作者はこう言ってます、ここは引用しますね。『「よく死なせる」ことを考える前に、「最後までその生を支える」ことがどれだけ追求できてるかを、もう一度振り返ってみる必要があるんじゃないか。「死にたい」と言ってる人が「死にたくなくなる、生きてみたくなる」ような手立てを、私たちは十分に尽くしているのか? そして、それぞれの個人が自分の生き方を追求することを尊重できる社会を作ってきたのか?」』って。要は、「良い死」のイメージをあれこれ考える前に、「どう生きるか」を考えろよと言いたいわけですよ。

水野
確かに、イメージの「安楽死」はそのあたりからから目を背けてる部分もありますね。 これもう、個人の終末の話じゃなくて、社会全体の責任という話ですか?「生きてみたくなる」支援をした? 自分らしく生きられる社会になってる? これを抜きに「死ぬ権利」を語るのは早いかも、と。その視点を持ちましょう、と。この辺りは私たちのブログの理念に近いですね、むしろ同じ。
森田
「視点」いい表現ですね。安楽死のイメージがフィクションだとしても、私の視点にはハッキリ映ってる。無視できない問題。「生きることに目を向けろ、社会が悪い」って言われても、逆に僕にはそれが現実逃避に聞こえる。私の目に映る「悪い死」は社会問題かもしれないけど、それ以上に、「私、個人の問題」なんです。だから本を読んで思ったのは、「やっぱり、辛い死は怖い。苦しい死も怖い。恨まれるような死も怖い。」 ってこと。作者の望みとは違うかもだけど、この本は社会に目を向けようとすればするほど、自分に向かわせましたね。逆説的だけど。
水野
「作者の望みじゃないかも」って言うけど、それが現実的な向き合い方だと思う。社会のせいにして止めるのこそ逃避。それで、すごくリアルに感じてる不安が消せるのか?ってことね。ここまでいくと「辛い死怖い」って感情にどんな議論も勝てないかも。
森田
もちろん、この問題は両立できますよね。二項対立でもないから「どちらを選ぶ?」「どっちが正しい?」って話ではないって点が重要なんだと思います。感情的で矛盾するのが人間でしょう?それを抱え込めるのも人間の強さ。だからこの本でそういった社会を考えると、逆に個人的な感情に気づく場面があると思う。極端にいうと「社会を変えたい」は建前で、本心は「辛い死が怖い」ってこと。社会のような外側から、ワンクッション挟まないと「本心と向き合えない」ってことだと思う。だからこの本は、社会とかイメージを通して自分の本心と向き合えるきっかけにもなる。私たちのブログでアプローチするのもこのため。
水野
『語る前に知っておきたいこと』は伊達じゃないですね。じゃあ最後にこの本はどんな人にオススメしますか?どんな人にはオススメしませんか?
森田
やはり皆さんに読んでもらいたいです。安楽死フィクション説から、その隠れている危うさまで。62ページで触れるのは良いと思います。かなり個人的な感想を言いましたが、尊厳死を考えるうためには社会に目を向けることは不可欠です。これは間違いいありません。個人的には医療制度側からのアプローチが最短だと感じます。逆にそのような具体的な課題や問題を語りたいなら物足りないと感じるはずです。
水野
この短さなら導入には最高かもしれませんね。というわけで、今回はここまで。皆さんご覧いただきありがとうございます。第1回でしたが今後もこのような本の紹介を続けていきたいと思います。
今回の対談を最後までお読みいただきありがとうございました。今回の対話が、少しでもあなたの参考になれば嬉しいです。
最後に、あなたの感想、感じたこと、考えたことを教えてください。どんな小さな意見も『思索の森』にとっては誰かの一歩へと繋がる貴重な道しるべです。次回も、あなたと共に考えることを楽しみにしています。
安藤泰至『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』、岩波書店、2019。
https://www.iwanami.co.jp/book/b458060.html
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